ひよこブログ

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新築戸建て設計時の無線ネットワークについて

はじめに

2020年7月に契約し、夢のマイホームの設計が始まりました。

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筆者は学生時代、『ユビキタス社会』に強く憧れておりました。
社会人となり数年、気が付いたら様々なIoT家電がインターネットへ接続し利用者に恩恵をもたらす便利な世の中になりました。
筆者もIoT家電をいくつか購入し生活に取り入れ便利な生活を送っております。

しかし・・・

ある日、これは生活が豊かになるに違いないと自信をもってスマートロックを導入したところ、インターネット経由での鍵の開閉ができず、妻には「エラーばかりでもたつくから普通の鍵のほうが早くて間違いない。これ意味あるの?」と文句を言われてしまいました。今までの人生を否定された気持ちで、必死に原因を調査したところ電波の混信のせいでした。
個人利用だとしても快適にIoT製品を利用するためには、安定した無線ネットワーク環境を用意する必要があるとそのとき筆者は強く考えました。
今回マイホームを建てる機会に恵まれ、スマートロックに加えエアコンや照明等、いくつかIoT対応製品を導入しました。今回は前述のスマートロック導入時の反省を活かし、安定した無線ネットワーク環境を自宅で提供することを意識し、自分と家族にとって快適な理想のお家を建てました。

同じ悩みを持つ人の参考になると良いなと思い、備忘録として記録したいと思います。

筆者は素人のため嘘を書いてある可能性もあります。あらかじめご了承ください。

新築住宅無線ネットワーク構築に向けた要件

ざっくりですが、設計前に下記のような要件を整理しました。

  • IEEE802.11(Wi-Fi)を使った無線ネットワークであること
  • 家全体に無線ネットワークが行き渡ること
  • 有線バックホール構成にすること
  • クライアントは2.4Ghz/5Ghz帯両方扱える場合は5Ghz帯を利用すること
  • リビング・書斎・寝室は高速に通信できること
  • スマートフォンやIoT家電を沢山接続しても安定利用できること
  • 見栄えがよいこと

無線ネットワーク(IEEE802.11)の特徴

当たり前ですが、設計の前に無線ネットワークの特徴を抑えておく必要があります。
無線ネットワークは大きく 2.4Ghz と5Ghz の異なる周波数帯が存在します。
それぞれの特徴を理解し、無線APを設置・利用することが重要になります。

2.4Ghz帯

メリット:
障害物にとても強く、壁や床を超えて電波を届けることができる。

デメリット:
無線ネットワークだけでなく、電子レンジやBluetooth等でも利用される帯域のため電波干渉を引き起こし安定した通信ができない場合がある。
扱えるチャネルが実質3つしかないため複数の無線APを使った干渉回避が難しい。
壁や床を超えて電波を届けてしまうため、近隣住民を意識した干渉回避が難しい。

5Ghz帯

メリット:
扱えるチャネルが19チャネルあるため複数の無線APを使ったチャネル設計が容易である。

デメリット:
直進性が強く障害物にとても弱いため、壁や床を超えて電波を届けることが難しい。

最近のスマートフォンやノートPCなどは、2.4Ghz/5Ghz共にサポートされているようですが、IoT家電などは2.4Ghzのみサポートしている製品が多いようです。

無線ネットワークの規格は、最大通信速度は2.4Ghz帯と5Ghz帯と変わらないようです。しかし、実際に市場で販売されている製品は、5Ghz帯のほうが通信速度が高くなるよう実装されている場合が多いです。これは、チャネルボンディングと呼ばれる技術が利用できるチャネル数が限られる2.4Ghz帯では扱いが難しいからと筆者は推測しています。
機器選定する際はマニュアルを確認し2.4Ghz帯と5Ghz帯の通信速度を確認すると良いでしょう。

チャネルと電波干渉

2.4Ghz帯では1chから13chまで存在し(14chは日本国内のみ)
一見多く見えますが、一つのチャネルが他のチャネルに重なる形で定義されているため、干渉無しで通信可能なチャネルは実質3個までとなります。(1ch,6ch,11ch)

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5Ghz帯は扱えるチャネルが19チャネルあるため、2.4Ghz帯と比べて複数の無線APを用いたチャネル設計はしやすいです。

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www.nic.ad.jp

電波干渉を防ぐため、自宅内だけでなく、近隣住民のチャネルの利用状況を意識した上でチャネル設計をすることが住宅無線ネットワークにおいて重要になります。

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同時接続数とスループット

IEEE802.11ac(Wi-Fi5)やIEEE802.11n(Wi-Fi4)をはじめとした、現在主流の無線LANは接続台数が増えると、遅延や速度低下が顕著に表れます。
IEEE802.11ax(Wi-Fi6)は沢山のクライアントが無線APに接続しても遅延や速度低下しない新しい仕組みが採用されています。
近頃Wi-Fi6対応の無線LANルーターが家電量販店でも並ぶようになりましたが、クライアント側でWi-Fi6対応の物はまだ少なく、Wi-Fi6に完全移行するまで暫く時間を要すると筆者は考えています。そのため、現環境においてある程度帯域を確保するためには複数台の無線APを用意し、1台あたりに接続するクライアントの台数をなるべく少なくし住宅全体でバランスよく割り振りすることが重要になります。

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www.janog.gr.jp

無線LANローミング

無線APを複数台用意することで、クライアントは複数の無線AP間を移動することが可能です。2.4Ghz帯は障害物に強いため、無線AP1台で住宅全体をカバーすることが可能かもしれませんが、5Ghz帯は障害物に弱いため、受信感度が弱まり通信速度が低下する傾向にあります。そのため、住宅全域で高速な無線通信を実現するためには、5Ghz帯の無線APを複数台設置しローミングできる構成をとることが重要となります。

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設計

無線ネットワークのポイントを押さえたら設計に入ります。

無線AP設置場所

無線APはメーカーや機種ごとに電波の届く範囲(カバレッジ)が異なります。
メーカーが公開しているマニュアルを確認し、設置予定場所に適した機種であるか確認します。

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documentation.meraki.com

次に受信感度と通信速度の確認をします。
IEEE 802.11ac(Wi-Fi5)の5Ghz帯の場合、
各通信速度 MCS0~MCS9に紐づく受信感度が -87dBm~-63dBmと記載されています。
高速通信を実現するためには、利用想定場所の受信感度がなるべく-63dBm付近であると良いことが分かります。f:id:Hikari1019:20210902223416p:plain

IEEE 802.11ax(Wi-Fi6)の5Ghz帯になると、
各通信速度 MCS0~MCS11に紐づく受信感度が -87dBm~-59dBmと記載されています。
高速通信を実現するためには、利用想定場所の受信感度がなるべく-59dBm付近であると良いことが分かります。

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documentation.meraki.com

受信感度が重要なことを意識した上で設置場所を検討する必要があるのですが、一番確実な方法は、現場で計測してみることです。
しかし、筆者は現場で受信感度を測定するタイミングを調整する事が難しかったため、事前に引っ越し前の住宅でスマートフォンWi-Fiアナライザーアプリを使い、電波の受信感度をざっくり測定し設置場所を検討しました。

筆者宅は大きな物件ではないため、1F/2F/3F 各フロアの天井の中心に1台ずつ設置すれば住宅全体に電波が行き渡ると判断しざっくり設置場所を決定しました。

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今回は有線バックホール構成を実現したかったため、無線AP取付場所からPoEスイッチまでLANケーブルを敷設する必要がありました。
したがって、無線AP取付予定場所にPF管を通すよう電気図に反映し施工してもらいました。
ホームシアター用のスピーカーも天井に配管しているため、スピーカー下地という名称になっています。

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配管・配線周りの設計に関しては前回の記事を参照ください。

hikari1019.hatenablog.com

チャネル設計

チャネルは自宅内と近隣住民と重複しないチャネルを選択することが重要です。
スマートフォンWi-Fiアナライザーアプリを使いチャネルの利用状況を確認しました。
確認したところ、筆者宅は5Ghz帯は外部からの流入はなく、2.4Ghz帯は多少入り込んでいましたがほぼノイズであることが分かりました。
※2.4Ghz帯は後撮りスクリーンショットのため筆者の既存の無線APが表示されています。

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集合住宅生活だった頃は上下左右から電波が流入し混信に悩まされておりましたが、新居では外部からの電波に神経質にならなくても良さそうでした。

電波の状況を把握した上で、5Ghz帯は全ての無線APで有効にし、2.4Ghz帯は1階と3階の無線APを有効にしました。2.4Ghz帯なので1台で家全体をカバーできると思いましたが、生活に密着したIoT家電は2.4Ghz帯のみ採用しているケースが多いため、冗長性を考慮し1階と3階の無線APで有効にしました。
チャネルは手動で設定することもできますが、一般的に自動設定が推奨されているようです。今回は念のため自動設定後にアサインされたチャネルを確認したところ、設計した通りのチャネルであったため、そのまま自動設定で運用しています。

※2021/09/20 修正
DFSに関する通信影響についてコメントを頂きました。設計を見直し図を修正しました。
修正前:1F 36ch/2F 52ch/3F 100ch
修正後:
  チャネル幅 80Mhz
  1F 58ch / 2F 42ch / 3F 106ch
2Fの無線APを気象レーダーや航空レーダーの影響のない周波数帯(W52)を割り当て、他のフロアをDFSチャネルを割り当てました。受信感度は同一フロアと比較し低下しますが、DFS検知時も接続性を提供します。
念のためDFSに関するログを確認してみましたが、記録されていませんでした。
引き続きモニタリングを行いたいと思います。
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www.cisco.com

ネットワーク名設計(SSID/ESSID)

無線APは2.4Ghz/5Ghz帯共に同じ名称のSSIDを設定可能な機器があります。
しかし、クライアント側が意図した通り動くとは限らないためおすすめしません。
筆者も2.4Ghz帯と5Ghz帯を同一名称のSSIDで利用しておりましたが、意図しないタイミングで2.4Ghz帯に


接続されていたことがあり、明示的に分けることにしました。

日本語のSSIDも設定できるようですが、クライアントによっては接続できない場合があるためおすすめはしません。

設置・構築

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マニュアルを参考に設置と設定を反映します。
妻からは「家なのにオフィスみたいだ」と言われてしまいましたが、筆者的には白の天井に白の無線APが空間に溶け込んでおり、とても満足しています。

構築後振り返り

構築後に改めて電波を測定したところ、フロア間のローミングができており全体的に満足できる環境になっています。

書斎(3F)

5Ghz帯(pine_ame)
同一フロア(3F)の無線APは-48dbm、2Fの無線APは-80dbm、1Fの無線APは完全に電波が届いていませんでした。
同一フロア無線APからの受信感度は良好で、最大通信速度で通信可能です。
2.4Ghz帯(orange_ame)
同一フロア(3F)の無線APは-34dbm、1Fの無線APは-73dbmでした。
受信感度は良好で、最大通信速度で通信可能です。

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リビング(2F)

5Ghz帯(pine_ame)
同一フロア(2F)の無線APは-43dbm、3Fの無線APは-60dbm、1Fの無線APは完全に電波が届いていませんでした。
同一フロア無線APからの受信感度は良好で、最大通信速度で通信可能です。
2.4Ghz帯(orange_ame)
3Fの無線APは-34dbm、1Fの無線APは-60dbmでした。
受信感度は良好で、最大通信速度で通信可能です。

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寝室(1F)

5Ghz帯(pine_ame)
同一フロア(1F)の無線APは-60dbm、2Fの無線APは-85dbm、3Fの無線APは-85dbmでした。選定した無線APは床方面へのカバレッジエリアが広いため、全ての無線APの電波を受信しているようでした。
他の計測ポイントと比較し同一フロアの無線APからの受信感度が悪かったです。
寝室は、無線AP設置場所から壁の向こう側に存在するため電波の通りが悪かったと推測しています。しかし、-60dbmの受信感度はあるため、ほぼ最速で通信可能でした。
2.4Ghz帯(orange_ame)
同一フロア(1F)の無線APは-46dbm、3Fの無線APは-78dbmでした。
受信感度は良好で、最大通信速度で通信可能です。

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玄関(1F)

5Ghz帯(pine_ame)
同一フロア(1F)の無線APは-48dbm、2Fの無線APは-82dbm、3Fの無線APは-78dbmでした。同一フロア無線APからの受信感度は良好で、最大通信速度で通信可能です。
2.4Ghz帯(orange_ame)
同一フロア(1F)の無線APは-48dbm、3Fの無線APは-82dbmでした。
受信感度は良好で、最大通信速度で通信可能です。
玄関は外部から2.4Ghz帯の電波をいくつか受信しておりますが、チャネルが重複しないよう設計したため安定した通信を実現しています。

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引っ越し前に課題のあったスマートロック(Qrio Lock)ですが、インターネット経由でのステータスの確認や鍵の開閉についてトラブルなくとても満足しています。
電気関係を設計する際コンセントの場所も工夫しました。Qrio Lock単体ではインターネット接続性がないため、Qrio HUBと呼ばれるWi-Fi接続用のアダプターを別途用意する必要があります。安定稼働を実現するためには、Qrio Lock本体、Qrio Hub、無線APの位置関係が重要になります。筆者は玄関の下駄箱付近にコンセントを用意し、そこへQrio HUBを接続することにしました。

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qrio.me

トイレ(1F)

5Ghz帯(pine_ame)
同一フロア(1F)の無線APは-48dbm、2Fの無線APは-82dbm、3Fの無線APは-78dbmでした。同一フロア無線APからの受信感度は良好で、最大通信速度で通信可能です。
2.4Ghz帯(orange_ame)
同一フロア(1F)の無線APは-48dbm、3Fの無線APは-82dbmでした。
受信感度は良好で、最大通信速度で通信可能です。
外部から2.4Ghz帯の電波をいくつか受信しておりますが、チャネルが重複しないよう設計したため安定した通信を実現しています。

2.4Ghz/5Ghz帯共に、トイレがIoT化された際も安定した無線ネットワークを提供できます。

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洗面所(1F)

5Ghz帯(pine_ame)
同一フロア(1F)の無線APは-58dbm、2Fの無線APは-78dbm、3Fの無線APは受信できていないようでした。同一フロア無線APからの受信感度は良好で、最大通信速度で通信可能です。
2.4Ghz帯(orange_ame)
同一フロア(1F)の無線APは-63dbm、3Fの無線APは-74dbmでした。
受信感度は良好で、最大通信速度で通信可能です。
外部から2.4Ghz帯の電波をいくつか受信しておりますが、今のところ影響はでておりません。

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最後に

最後まで読んでいただきありがとうございます。
独学で勉強しながら新築マイホームの無線ネットワーク 設計・構築をしてみましたが、とても難しかったです。5Ghz帯は思った以上に電波の通りが悪く、ドア1枚程度であれば大きな影響はありませんが、床や壁を超える構成になると受信感度に影響します。
やはり、目に見えないものを作り上げるのは難易度が高いと実感しました。
通信速度を最大に維持したい場合は、なるべく利用する部屋全てに無線APを設置するか、無線AP設置場所からドア1枚程度に抑えられる場所に取り付けると良いと思います。

無線APや無線ルーターは家電量販店で簡単に手に入れられる時代になり、見かけ上は簡単に利用できる世の中になりました。しかし、スマートフォンや近年急速に増えたIoT機器を快適に利用するためには、無線ネットワークの特徴を捉え設計することが重要だと感じました。
妻からは今のところ天井の無線APがオフィスのようだと言われたこと以外、無線ネットワーク環境に関する小言はありません。

 

以上。